シスコ創立25周年記念対談・村井純教授&トニー・リー

最大の課題はIPv6へのマイグレーション
ソフトウェアによる実装方法も

シスコ創立25周年記念対談・村井純教授&トニー・リー

国によって温度差があるIPv6マイグレーション
モビリティや災害対応等も興味深いテーマに

2010年11月16日、東京ミッドタウンにて「日本のインターネットの父」として知られる慶應義塾大学教授 村井純氏と、シスコ フェロー トニー・リー(Tony Li)の対談が行われた。司会進行はシスコシステムズ シニアマネージャーの人見 高史が担当。話はインターネットの歴史から、現在行われている取り組み、インターネットの将来展望、個人的な情報交換等、幅広い領域に広がっていった。ここではその中から将来展望を中心とした対談内容を紹介したい。IPv6 の現状や普及に向けた課題、モバイルへの取り組み、災害時におけるインターネット接続など、いくつかの興味深い話題が取り上げられている。

インターネットの最大の課題は
IPv4 から IPv6 へのマイグレーション

Tony Li人見: 本日は夕食会を兼ねた対談にご参加いただきありがとうございます。本日のモデレーターを務めさせていただく、シスコシステムズの人見と申します。
村井: シスコがまだスタートしたばかりの、まだ小さな会社だった頃、シスコでレクチャーをしたことがあります。
人見: 1980年頃ですね。
村井: そうです。
人見: 今年でシスコは25周年を迎えました。
村井: それはおめでとうございます。
人見: ありがとうございます。
 さて今夜は主にインターネットの未来について語り合いたいと思っています。まずトニーはどのような考えを持っていますか。インターネットは今後どのような方向へ進化し、アーキテクチャー面でどのような障壁を乗り越えるべきだと考えていますか。
リー: まず最初に挙げるべき問題は、いかにしてすべての人々を IPv6 へと移行させるかということだと思います。IPv4 アドレスは枯渇しつつありますが、多くの人々はまだ IPv6 へのマイグレーションを望んでいないようです。
 このままでは IPv4 アドレスを売買するブラック マーケットができるかもしれません。IPv4 アドレスの価格が上昇すれば、IPv6 のテクノロジーはより成熟したものになり、IPv6 への移行は IPv4 を使い続けるよりも安価な選択肢になるでしょう。しかしそうなるまでには時間がかかる。おそらく10年はかかるのではないでしょうか。
 問題は IPv6 の普及がいつ18%に達するかです。これまでの歴史が示すように、18%の壁を超えることで大きなトレンドができ、他の人々も追随するようになるからです。18%への最初のステップは、モバイル フォンから始まると私は考えています。IPv6 を実装したモバイル フォンが数多く登場することで、IPv6 コンテンツも増えていくはずです。

中国で本格化しつつあるIPv6の採用
ソフトウェアへの実装も注目ポイント

村井純教授 村井: IPv6 と言えば、先週火曜日に北京に行った時、中国のあるアプライアンス企業の興味深いアナウンスメントを耳にしました。その企業のソフトウェアに IPv6 を採用するというものです。このソフトウェアをダウンロードすれば、彼らのマシン上の仮想マシンとして動き、サービス センターとの間にIPv6グローバル アドレスを使ったトンネルを作り、グローバル インターネットと接続するというものです。彼らはまずメッセンジャー ソフトウェアでテストを行い、その後で他のソフトウェアにも展開していく計画だそうです。
 このアナウンスメントを聞いて私が思ったのは、もし IPv6 の採用が本格的に進むのであれば、その主要な場所はアプリケーション ソフトウェアではないかということです。そこではフル プロトコル スタックがグローバル アドレスと共に動き、一種のオーバーレイ ネットワークを構成します。リアル ネットワークとバーチャル ネットワークが混じり合うわけです。ただ、ルーティング処理に混乱が生じないかが気にかかります。リアルな接続なのかトンネル接続なのか、ルーターは判別できません。そのため膨大なルーティング計算が必要になるでしょう。
リー: そのようなトンネルの利用が広がれば、大きな問題になるでしょうね。おそらくこれらのアプリケーションは IPv6 アドレスがハード コーディングされており、トンネルの先は IPv4 アドレスではないかと思います。もしそうであれば危険ですね。
村井: その通りです。
リー: どのような設計なのか、興味があります。しかしルーティングに関していえば、比較的簡単な方法を採っていると思います。それとも何かトリッキーな方法を使っているのでしょうか。
村井: 当然の疑問だと思います。IPv6 の実装には多様な方法があります。しかしここでひとつ注目したい点は、中国では IPv4 が課金対象だということです。IPv6は無料なのですが、IPv4 は有料なのです。
リー: ということは、IPv6 にトライしたいというモチベーションが高くなるわけですね。
村井: その通りです。意図的なインセンティブがあるわけです。そのため中国では IPv6 のトラフィックが多い。それもネイティブな IPv6 です。無料ネットワークは IPv6 だけなので、当然ながら学生は IPv6 を使いたがり、もし何か問題があれば彼ら自身で解決していきます。これはいいことです。